小学校の英語教育が変わります。2020年度より全国的に小学3年生から必修(外国語活動)となり、5年生からは「教科」として扱われる予定です。既に2018年度より移行期間は始まっており、子どもから「英語」に関する質問をされて困った…という人もいるのではないでしょうか。本連載では、高校の英語教諭・大竹保幹氏の著書、『子どもに聞かれて困らない英文法のキソ』(アルク)から一部を抜粋し、もう一度おさらいしたい英文法の基礎と、子どもに教える際のポイントを解説します。今回のテーマは、“it”の用法です。

“it”は、一度話題に出てきた「特定された物」の代わり

代名詞は、基本的には同じ名詞を繰り返し使うのを避けるために使われています

 

例えば、I have a bag. My bag is blue. I like my bag very much.(カバンを持っています。私のカバンは青です。私は自分のカバンを気に入っています)という英語はbagという語を使いすぎているため、少しくどい印象を与えてしまいます。ところが、itを使えば、I have a bag. It is blue. I like it very much.のように、見た目がスッキリとするだけでなく、bagを繰り返す必要がなくなっていますね。

 

itには「それ」という日本語が与えられていることが多いので、その訳を覚えていれば、「物」の代わりをするんだということはすぐに理解ができそうです。しかし、「それ」という日本語につられて思わぬ言い間違いをしてしまうことだってあります。今回は、itを使う上で気を付けてほしいことについて見ていきましょう。

 

「これください」「それです」「あれ取って」という表現にあるように、自分の近くにあるものは「これ」、相手のそばにあるものは「それ」、遠くにあるものは「あれ」という語を使って指示を出すことがあります。こういった語は、物の具体的な名前が思い出せないときにも使えるので非常に便利です。特に、外国で買い物をするときには、商品の名称が分からないことが多いので、ぜひ覚えておきたい表現ですね。

 

英語では、近くのものにはthis(これ)、遠くにあるものにはthat(あれ)を使うのが基本です。距離感は人ぞれぞれなので、日本語と同じように使い分けて構いませんが、「それ」に当たる語がないため、こちらにもthatを使うことになります。

 

そのため、「それ何?」「それ見せて」と言うときは、What’s that? 、 Show that to me.という言い方になります。ここで間違ってもitを使ってはいけません。itは日本語訳こそ「それ」ですが、すでに出てきた名詞の代わりをする語なので、初めて話題に出てくるものに対して(×)What’s it?と言うことはできないのです。「あれ」も「それ」もどちらもthatなのです。

 

ところでthisとthatは名詞と一緒に使うことで、this house(この家)、that man(あの男性)と特定の人や物を指し示すこともできます。まるで形容詞のようですね。

 

冒頭でも紹介したように、代名詞を使うことで同じ名詞を何度も使う必要がなくなるため、英文全体がこなれた感じになります。This is my friend, Tom. He is a teacher.(こちらは友人のトムさんです。は先生をしているんですよ)という文では、heがmy friend, Tomの代わりをしてくれていますね。Do you like music?(音楽は好き?)という質問にもI like it very much.(とても好きですよ)と、itをmusicの代わりにすることができます。自分の言ったことだけでなく、相手の言った内容についても代名詞を使うことだってできるのです。

 

しかし、代名詞は使い慣れてきた頃に注意が必要になることがあります。代名詞は何かの代わりをするもの。自分が使うitが一体「何の代わり」をしているのかを冷静に判断することも大切なのです。次のクイズで考えてみましょう。

 

Q:どうやら、あなたの友人は筆記用具を持ってくるのを忘れてしまったようです。ペンを貸そうと思うのですが、(  )にどのような語を入れると、「ペンを持っていること」をうまく伝えられるでしょうか。

 

Your friend: I forgot to bring my pen.

You: I have(  ). Here you are.

 

itなら、同じ名詞を繰り返し使うのを避けられるのですが、このケースでは誤解されてしまいそうです・・・。

 

代名詞は、一度話題に出てきた「特定された物」の代わりをします。そのため、もしここでI have it.(それ持ってるよ)と言ってしまうと、my penを表すことになってしまい、これでは友人が探しているペンをあなたが隠し持っていたかのようですね。itは、ただ単に名詞の繰り返しを避けているわけではないのです。

 

それでは、こういう場面ではitではなく、どんな語を使えばいいのでしょうか。I have a pen.(私、ペン持ってるよ)という言い方なら良さそうです。自分の筆箱に入っているペンを1本差し出しながら言う感じです。また、普段は数字の「1」を意味するoneを使って、I have one.(1本あるよ)という表現もあります。oneには「1つのもの、人」という意味もあり、代名詞の仲間になることもあるのです。名詞の単純な繰り返しを避けるときにはoneが役に立ちそうですね。

 

itには、一度話題にあがった「特定の物」を表すという役割のほかに、heともsheとも言いようのないものを表すこともあります。

 

例えば、rainには「雨が降る」という意味がありますが、おとぎ話でもない限り誰が雨を降らせているかは分かりません。そのため、主語がよく分からないということでitを使い、It rains today.(今日は雨です)という言い方をします。「時間」だって誰が動かしているのか分からないので、こちらもitを主語にしてIt is nine o’clock.(9時です)と言います。

 

こういった特殊なitの使い方は、最初はなんでそうなるのか理解しきれないこともありますが、「天気」や「時間」など、よく使う場面は限られています。なんでもかんでもitになるわけではありません。

同じ語の繰り返しを避ける意図なら“one”を

【itの基本】

itは話題に出てきた「物」の代わりになる語。

ただし、「それ」という日本語訳につられて使ってはいけない。

 

itと使い分けてほしい表現

近くや遠くにあるものを指すとき

●これ、この:this(複数形はthese)

 例  This is my house.(これが私の家です)

   I like these pictures.(この写真好きです)

 

●それ、あれ、その、あの:that(複数形はthose)

 例  What is that? (それ何?)、Look at those animals.(あの動物見てみてよ)

※itは話題に出てきたものしか表すことができません。

 

同じ語の繰り返しを避けるとき

●one:単純に単語を繰り返し使いたいときに使う

 例  That dog is cute. I want to have one someday.

(あのイヌかわいいよね。いつか私もイヌ飼いたいなぁ)

※itだとthat dogのことを表すことになってしまいます。

 

itの特殊な使い方

「天気」「気温」「時間」などを表す:itを主語にする

 例  It is sunny.(今日は晴れです)、It is hot today.(今日は暑いですね)

 

(ポイント1) itは「それ」ではない

 

学習の初期段階では、日本語訳を頼りに英語の勉強をすることが多くなります。しかし、日本語の「それ」とitがまったく同じものだと思い込んでしまうと、英語がうまく伝わらないということも起こってしまいます

 

I forgot my pen. Do you have it?

(ペン忘れちゃった。ぼくのペン持ってる?)

 

itは、話題に出ている特定された物を指すので、ここでは“my pen”を表してしまいます。自分がペンを忘れてしまったのに、まるで友人が代わりに持ってきてくれているかのような発言ですね。

 

I forgot my pen. Do you have one?

(ペン忘れちゃった。ペン持ってる?)

 

oneなら単純に“pen”という語の代わりだけをします。これなら普通にペンを借りられそうです。

 

このoneの使い方は、最初のうちはなかなか難しいはずです。I forgot my pen. Do you have a pen? と言っても決して変ではないので、慣れてくるまではこういう言い方でもまったく問題ありません。

 

(ポイント2) 「物」を表さないこともある

 

itは何かの語の代わりではなく、「天気」や「時間」、その場の「状況」など、そもそも誰が主語になるのか想像できないような「漠然としたもの」を表すことがあります。「それ」以外のitの用法を覚えると、英語で表現できることが豊かになるのだと教えてあげるといいかもしれませんね。

 

It’s OK.(大丈夫だよ)

 

このitは相手の言ったことかもしれませんし、そのときの状況に対してかもしれません。

 

Who is it? (どちらさまですか?)

It’s me.(私だよ)

 

電話など、相手の姿が見えないときには「人」に対してもitを使うことがあります。応答するときには相手が言ったitを受けて、It’s me.という言い方をします。「『それ』の正体は私だよ」という感じでしょうかね。

 

 

大竹 保幹

神奈川県立厚木高等学校 教諭

文部科学省委託事業英語教育推進リーダー

 

子どもに聞かれて困らない 英文法のキソ

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大竹 保幹

アルク

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