年金への依存が大きくなる老後。年金の受取額を増やしたいと、誰もが思うでしょう。そこで検討したいのが「年金の繰下げ受給」。特に65歳以降も働き続け「年金をもらわなくても生活できる」という場合、年金を受け取らず、増えていく年金ににんまりとする、というのもひとつの選択肢。しかし、きちんと制度を理解しておかないと、損を被ることに。みていきましょう。
65歳で月17万円だったが…「年金が増えますよ!」にノリノリの夫が74歳で急逝、「遺族年金額」を知って声を荒げる妻「年金の繰下げなんて意味ないじゃない!」

年金の繰下げで増えていく受取額…皮算用をしてウキウキしていたが

65歳でもらえる年金は、夫は月17万円、妻は月8万円、合計夫婦で25万円。年金相談会の後、妻は65歳から受給、65歳以降も給与収入がある夫は、働いている間は繰下げ受給することに決めたといいます。

 

66歳になったとき「よし、年金が8.4%増えた」

67歳になったとき「よし、年金が16.8%増えた」

68歳になったとき「よし、年金が25.2%増えた」

69歳になったとき「よし、年金が33.6%増えた」

70歳になったとき「よし、年金が42.0%増えた」

71歳になったとき「よし、年金が50.4%増えた」

72歳になったとき「よし、年金が58.8%増えた」

73歳になったとき「よし、年金が67.2%増えた」

74歳になったとき「よし、年金が75.6%増えた」

 

年金増額にウキウキしていた夫。しかし、もし年金の繰下げ待機中に亡くなったら、どうなるのでしょうか。まず遺族は、65歳から亡くなるまでに受け取れるはずだった年金を「未支給年金」として請求することができます。ただし、年金額は65歳時点の金額で確定。65歳から亡くなるまでの繰下げ期間は加味されません。また受給権には5年という時効があり、もし74歳0ヵ月で亡くなった場合、69歳0ヵ月より前の年金は権利が失効している可能性があります。

 

――えっ、年金を繰り下げても意味なかったじゃない!

 

さらにショックなことがもうひとつ。厚生年金がもらえるはずだった夫が亡くなれば、遺族は遺族厚生年金をもらえる可能性があり、その年金額は死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3。65歳で受け取れる年金が月17万円という夫。厚生年金部分は月10.2万円なので、遺族年金は月7.65万円。もし74歳0ヵ月まで年金を繰り下げたら、年金は月29.92。そこで亡くなってしまったら、遺族厚生年金は13.4万円近くになると考えるでしょう。しかし実際に受け取れる遺族年金は、65歳時の年金額に対して計算されたもの。すなわち、7.65万円です。

 

さらに妻は月1万2,000円の老齢厚生年金を手にしています。65歳以上で遺族厚生年金と老齢厚生年金を受ける権利がある人は、老齢厚生年金は全額支給、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額の支給が停止となります。最終的に妻が受け取れる遺族年金はさらに減額されて、月6.45万円ほどということになります。

 

――何それ!繰下げしても意味ないじゃない!

 

再び声を荒げてしまうこと、間違いありません。年金の繰下げ受給は確かに年金の受取額を増やすことのできる制度ですが、一方で、「意味のない」結果になることも忘れてはなりません。増額された年金額だけに惑わされることなく、しっかりと検討することが大切です。

 

[参考資料]

日本年金機構『年金の繰下げ受給』

日本年金機構『遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)』